インターネットやスマートフォンが生活に欠かせない現代において、デジタル技術を利用できる人とできない人の間に生じる「デジタル格差（デバイド）」が深刻な問題となっています。

デジタル格差は、利便性の問題だけでなく、教育・経済・社会参加の機会にまで影響を及ぼすものです。

この記事では、デジタル格差の基本的な定義から、その解消に向けた国の対策や支援事例、そして企業が取り組むべきウェブアクセシビリティ対応の手順までを分かりやすく解説します。

デジタル格差（デバイド）とは？ 

現代社会では、行政手続き・買い物・仕事・コミュニケーションのほぼすべてがデジタル化されています。

しかし、その恩恵を等しく受けられていない人々も存在します。

この「デジタル社会に取り残されてしまう人々」との間に生じる差こそが、今、社会問題となっているデジタル格差（デバイド）です。

デジタル格差は「情報アクセス・活用能力の格差」

デジタル格差とは、年齢・障がい・地域・経済状況・教育水準などといったさまざまな要因によって、ICT（情報通信技術）を利用できる者と、できない者の間に生じる情報アクセスや活用能力の格差のことを指します。

スマートフォンやインターネットの利用が日常化する中で、情報収集や社会参加、経済活動における機会の不平等につながり、その格差は年々広がっています。

特に日本国内では、デジタルデバイスの操作に慣れていない高齢者や、支援技術を必要とする障がい者の間で情報活用能力の格差が顕著に見られており、早急な対策が求められています。

ウェブサイトの「情報バリア」が格差を拡大させる

デジタル格差の深刻化は、利用する側の問題だけでなく、情報を提供するウェブサイト側の対応不足によっても引き起こされています。

つまり、ウェブサイトが特定のユーザーにとって「情報バリア」となっているのです。

例えば、視覚に障がいのある方にとって、画像に内容を説明する代替テキスト（Altテキスト）がなければ、その画像は存在しないのと同じです。

また、高齢の方にとって「文字が小さすぎる」「配色が見づらい」「サイトの操作が複雑すぎる」といった設計は、情報を諦めてしまう原因となります。

企業や行政が情報提供を行う際、この「情報バリア」を取り除く努力をしなければ、結果的に社会的な格差を拡大させてしまうことになりかねません。

デジタル格差を解消するための方法

深刻化するデジタル格差を解消し、誰もがデジタル社会の恩恵を受けられるようにするためには、多角的なアプローチが必要です。

デジタル格差の問題は、国や自治体、教育機関、そして企業がそれぞれの役割を果たすことで解決へと向かいます。

ここでは、デジタル格差を解消するための主要な3つの柱について解説します。

環境・インフラの整備

デジタル格差を解消する上で重要なのが、物理的なアクセス環境を整えることです。

どんなに優れた情報があっても、インターネット回線がなければアクセスできません。

国や自治体が主導となり、山間部や離島などの未整備地域にブロードバンド回線を全国に普及させる取り組みが進められています。

また、経済的な理由でデジタル端末を持てない人々に対し、スマートフォンやタブレットを提供・貸し出す支援も重要です。

誰もが安定した高速インターネットに接続でき、情報を閲覧するための道具を持っている状態を確保することが、格差を埋める基盤となります。

デジタル活用スキルの向上

物理的な環境が整っても、機器の操作方法やデジタルサービスの利用方法が分からなければ、情報活用はできません。

そこで重要となるのが、利用者のスキルとリテラシーを高めるための教育と支援です。

例えば、高齢者の方々が安心してスマートフォンやオンラインサービスを使えるようになるための「デジタル活用支援員」による教室や、小中学校でのICT教育の強化などが挙げられます。

利用者がデジタル技術に対して苦手意識を持たず、自ら情報を活用できる能力を身につけることが、デジタル格差の解消につながります。

情報アクセシビリティの確保

インフラが整い、スキルが向上しても、提供される情報やサービス自体に「バリア」があっては格差は解消されません。

これが、企業の役割が最も大きい「情報アクセシビリティの確保」です。

ウェブサイトやアプリにおいて、高齢者や障がい者が利用しやすいように配慮する、ウェブアクセシビリティ対応がこれにあたります。

具体的には「画面が見づらい」「キーボード操作ができない」といったユーザー側の制約を乗り越えられるよう、情報提供側のデザインやコーディングに配慮することです。

すべての人々が情報にアクセスできるよう、提供される情報の側に配慮することが、格差を解消する最大のポイントとなります。

高齢者・地域間のデジタル格差に対する具体的な支援事例

デジタル格差の解消は、政府や企業、そして地域の支援が連携することで初めて実現します。

ここでは、「環境の提供」と「スキルの向上」という2つの側面から、特にデジタル化の遅れが目立つ高齢者層と、地理的な制約がある地域間格差を埋めるために行われている、具体的な支援事例をご紹介します。

自治体・企業によるスマホ・タブレット教室

高齢者の方々が「デジタルは難しい」という苦手意識を克服し、自ら情報にアクセスできるようにするため、実践的な操作スキルを学ぶための教室が全国各地で展開されています。

携帯電話会社のショップが開催する、地域と連携してスマートフォンやタブレットの基本的な操作方法、LINEや地図アプリなどの生活に役立つツールの使い方を丁寧に教える講座がその一例です。

また、公民館や地域のコミュニティセンターでも、自治体の職員やボランティアが講師となり、写真の撮り方や行政手続きのオンライン申請方法など、日常生活に直結した内容を少人数制で教えています。

こうした取り組みは、デジタル機器を「身近なもの」と感じてもらう上で、大きな役割を果たしています。

通信インフラ整備と格安デジタルサービスの提供

地域間のデジタル格差を解消するためには、まず物理的なインフラの整備が欠かせません。

国と通信事業者が連携し、これまで光回線や高速通信（5Gなど）が届きにくかった山間部や離島などへのインフラ整備を加速させています。

これは、地理的な制約を乗り越えて、どこに住んでいても安定したインターネット接続を可能にする上で重要です。

さらに、経済的な理由による格差を解消するため、低所得者層や高齢者層を対象に、通信料の割引サービスを提供したり、中古のタブレット端末などを無償で提供したりする取り組みも行われています。

「利用したいのにできない」という障壁を取り除くことが、この支援の大きな柱となっています。

デジタル推進委員による個別サポート

デジタル技術の活用を促す上で最も効果的なのは、一人ひとりの困りごとに寄り添う個別サポートです。

デジタル庁が推進している「デジタル推進委員」制度では、企業や団体の職員、地域ボランティアなどが委員となり、高齢者や障がい者に対しデジタルサービスの利用方法を個別に支援しています。

内容としては、スマートフォン操作やマイナンバーカードの利用、行政手続きのオンライン申請といった実用的なサポートが中心です。

地域に根ざした顔の見えるサポートは、利用者が安心して質問でき、「自分にもできる」という自信を持ってもらう上で、重要性の高い取り組みとなっています。

参考：デジタル推進委員の取組｜デジタル庁

情報アクセシビリティ確保のための具体的対策

デジタル格差を解消する上で、企業や行政が情報提供側として取り組むべきなのが情報アクセシビリティの確保、つまりウェブアクセシビリティ対応です。

ウェブサイトの利用に壁がある状態を放置することは、社会的な公平性を欠くだけでなく、ビジネス上の機会損失にもつながります。

ここでは、情報格差を解消するために企業が取るべき3つの対策をご紹介します。

法的義務化への対応

これまでウェブアクセシビリティ対応は「社会的な配慮」として推奨されてきましたが、2024年4月に施行された改正障害者差別解消法によって、その位置づけは大きく変わりました。

この改正により、民間事業者にも「合理的配慮の提供」が義務化され、ウェブサイトのアクセシビリティ対応は「必要性」から「義務」へと変化したのです。

アクセシビリティ対応の遅れは、利用者の排除につながるだけでなく、法的なリスクや企業の社会的信頼の低下を招く可能性があります。

企業経営層は法的な背景を理解し、コンプライアンスの一環として速やかに対応を進める必要があります。

関連記事：2024年4月施行「障害者差別解消法」改正とWeb対応の義務化｜企業が今すべきこととは？

国際基準（WCAG）に基づいた改善

具体的にウェブサイトをどのように改善すれば良いかという指針となるのが、国際的な基準である「WCAG（Web Content Accessibility Guidelines）」です。

WCAGに基づいた改善を行うことが、情報アクセシビリティ確保の王道といえます。

初期段階で取り組むべき基本的な対策は多岐にわたりますが、まずは以下の点に注力することが大切です。

• キーボード操作だけでサイトの全機能が使えるようにすること
• 視覚に障がいがある方向けに画像に適切な代替テキストを設定すること
• テキストと背景色のコントラスト比を確保すること

これらの基本的な対応を進めるだけでも、利用者の利便性は大きく向上します。

関連記事：WCAG（ウェブコンテンツ・アクセシビリティ・ガイドライン）とは？今さら聞けない基本から対応のポイントまでを解説！

専門ツールを活用した効率的な対策

数百、数千ページにわたるウェブサイト全体を、人手だけで継続的にチェックし、改善していくには限界があります。

多くの企業にとって、その工数と専門知識を確保するのは非現実的です。

そこで推奨されるのが、専門のアクセシビリティ検証ツールを活用する方法です。

ツールを利用することで、ウェブサイト全体にわたるアクセシビリティの問題を、継続的かつ網羅的に自動で検出できます。

手動では見落としがちな技術的なミスも効率よく特定できるため、対応にかかる時間とコストを大幅に削減し、デジタル格差解消の取り組みを加速させることが可能です。

ウェブアクセシビリティ対応を始めるための具体的な手順

ウェブアクセシビリティ対応をいざ始めようと思っても、「何から手を付けて良いか分からない」と感じる担当者の方も多いでしょう。

ウェブアクセシビリティ対応は、場当たり的な修正ではなく、計画的かつ継続的に進めることが大切です。

ここでは、ウェブアクセシビリティ対応に取り組むための手順を、4つのステップに分けてご紹介します。

目標とする適合レベル（A/AA/AAA）を決定する

まず最初に行うべきは、「自社がどこまでのアクセシビリティレベルを目指すのか」を明確に決定することです。

ウェブアクセシビリティの国際基準であるWCAGには、達成度が低い順に「A（シングルエー）」「AA（ダブルエー）」「AAA（トリプルエー）」という3つの適合レベルがあります。

このうち、多くの企業や公的機関の目標として推奨されているのが「AAレベル」です。

AAAは非常に厳格で対応が難しい項目も多いため、まずはAAレベルの達成を現実的なゴールとして設定しましょう。

目標を設定する際には、後の予算やリソースの確保、改修範囲を定める段階を見据えて、経営層や関係者とも合意形成を図っておきましょう。

現状のウェブサイトの課題を把握・診断する

目標レベルが定まったら、次に現在のウェブサイトにどのような問題点があるのかを網羅的に洗い出すフェーズに入ります。

これには、主に2つの方法があります。

• 無料の検証ツールを使って、技術的なエラーや色のコントラストの問題などを機械的にチェックする
• 専門家による手動チェックや、実際に支援技術（スクリーンリーダーなど）を利用したテストを行う

費用はかかるものの、ツールでは見つけられない「操作のわかりやすさ」や「文脈の理解」に関する問題は、人の目や手で確認する必要があります。

「Accessdove」では、サイトのアクセシビリティの状態を無料でチェックできます。

サイトのURLを入力するだけで登録も不要ですので、ぜひ以下のページからお試しください。

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改修計画を策定し、優先順位を付ける

課題の洗い出しが終わったら、それらを闇雲に改修するのではなく、計画的に取り組むためのロードマップを作成しましょう。

洗い出された多数の課題を「緊急度（法的なリスクの高さなど）」や「影響度（多くのユーザーが利用する重要なページかどうか）」に基づいて分類し、どの問題から改修していくかの優先順位を明確にすることが大切です。

例えば、「決済フォームのキーボード操作ができない」といった致命的な問題は最優先となります。

プロジェクトを滞りなく効率的に進めるためにも、改修計画には工数や予算、担当部署についても落とし込み、関係者全員が共有できる状態にしておきましょう。

継続的な運用・チェック体制を構築する

ウェブアクセシビリティ対応は、一度改修を終えたら終わりではありません。

サイトに新しいコンテンツを追加したりデザインをリニューアルしたりするたびに、再びアクセシビリティの品質が低下するリスクがあります。

そのため、品質を維持するための継続的な運用・チェック体制を構築することが重要です。

「アクセシビリティガイドライン」を策定し、コンテンツ担当者やデザイナーなど、サイト制作に関わる社員全員を対象とした定期的な教育や研修を行う必要があります。

効率的かつ網羅的な運用を重視するなら、「Accessdove」のような自動監視ツールを導入し、定期的なチェックを習慣化することで、常に高い品質を維持できる体制を目指しましょう。

デジタル格差を解消する技術と今後の展望

デジタル格差を埋めるための取り組みは、インフラ整備や教育支援に留まらず、技術革新によって加速しています。

AI（人工知能）やユニバーサルデザインといった最先端の技術は、情報へのアクセスに困難を抱える方々の大きな助けとなり、デジタル社会の公平性を高めているのです。

ここでは、デジタル格差解消に向けた技術的な取り組みと今後の見通しをご紹介します。

AIを活用した情報支援技術

AI（人工知能）技術は、認知機能や感覚機能に障がいを持つ方々の情報アクセスを改善する可能性を秘めています。

例えば、会議や動画コンテンツの音声を瞬時に高精度で文字起こしし、聴覚に障がいを持つ方々へリアルタイムでの情報理解を促します。

また、AIによる自動翻訳は言語の壁を取り払い、国際的なデジタル格差の解消に貢献するでしょう。

さらに、ウェブサイトやアプリで簡単な対話から情報を検索したり、利用者の状況に合わせてコンテンツを自動調整するなど、AIが個々のニーズに応じたきめ細やかな情報支援を可能にすることで、情報の利用がさらに容易になることが期待されています。

ユニバーサルデザインのデバイス開発

デジタル格差の解消には、そもそも誰もが無理なく使えるデジタル機器が必要です。

近年、高齢者や障がいを持つ方でも直感的に使えるよう、ユニバーサルデザインの視点を取り入れたデバイス開発が進められています。

スマートフォンでは、画面上のボタンやアイコンを大きくしたり、複雑なメニューを排除して音声操作に特化させたりしたシンプルな設計のモデルが登場しています。

また、アプリ側でも、文字サイズや配色を自由にカスタマイズできる機能が充実してきています。

こうしたデバイスやアプリの開発動向は、技術的な知識や身体能力に依存せず、誰もが自然にデジタルサービスを利用できる環境を整えています。

ウェブアクセシビリティの標準化と国際連携

デジタル格差の問題は一国にとどまらず、世界規模での課題です。

そのため、国境を越えて情報アクセシビリティを確保するためには、国際的な標準化と技術連携が欠かせません。

W3Cが策定する「WCAG（Web Content Accessibility Guidelines）」のような国際標準は、世界中のウェブサイト開発者が共通して目指すべき指針となり、グローバルなデジタル格差の解消に不可欠な役割を果たしています。

今後も、この標準を基盤として各国・各企業間での技術開発の協力が進むでしょう。

さらに、AIや新しいインターフェース技術がWCAGの基準に組み込まれることで、より広範囲でシームレスなアクセシビリティ対応が実現されると見込まれています。

まとめ｜デジタル格差対策は企業の社会的責任と成長戦略につながる

デジタル格差の解消は、インフラやスキル教育だけでなく、情報を提供する側である企業のウェブアクセシビリティ対応が重要です。

アクセシビリティ対応は、改正障害者差別解消法への対応という社会的責任（CSR）を果たすと同時に、高齢者や障がい者を含む新たな顧客層を取り込み、サイト全体の品質を向上させるという点で、企業の成長戦略にも直結します。

確実かつ効率的に対応を始めたいとお考えなら、タグ1行で実装できるアクセシビリティツール「Accessdove」が有効です。

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