ウェブアクセシビリティのJIS規格について徹底解説!
ウェブアクセシビリティ対応に向け、日本国内における多数の企業がJIS規格を利用しています。JIS規格であるJIS X 8341-3は、日本独自の規格として2004年にリリースされ、2回の改定が行われました。
本記事では、ウェブアクセシビリティ関連の規格やJIS X 8341-3の概要、JIS X 8341-3を利用した対応ステップについて詳しく解説します。JIS規格について知りたい方、ウェブアクセシビリティに対応したい方は、ぜひ参考にしてください。
ウェブアクセシビリティとは
ウェブアクセシビリティとは、年齢や障がいの有無、国籍などに関わらず、全ての人がWebサイト・サービスを利用可能にする考え方や方法のことです。近年のインターネット普及は著しく、Webサイトを使えなければ、情報収集やサービス利用で不利になるでしょう。ウェブアクセシビリティには、誰もがWebサイトを利用できる状態にし、格差を是正する目的があります。
なお、ウェブアクセシビリティの概要に関する詳細は、以下をご覧ください。
⇒ウェブアクセシビリティとは何か?初心者向けにわかりやすく解説
ウェブアクセシビリティ関連の規格
ウェブアクセシビリティ達成に向け、実施事項の明確化を目的に以下3種類の規格が設けられています。
- WCAG(技術的な規格)
- ISO/IEC 40500(国際規格)
- JIS X 8341-3(国内規格)
ここからは、上記それぞれの規格について詳しく解説します。
WCAG(技術的な規格)
WCAG(Web Content Accessibility Guidelines)は、W3C(World Wide Web Consortium)が作成した技術的な規格です。W3Cは、World Wide Webで使用される各種技術の標準化や相互運用性の確保を推進するために設立された 標準化団体です。ティム・バーナーズ=リー氏により1994年に創設されました。現在の最新バージョンは、2023年10月5日にリリースされたWCAG2.2です。
ISO/IEC 40500(国際規格)
ISO/IEC 40500は、国際標準化機構(ISO)と国際電気標準会議(IEC)が共同で制定した規格で、WCAG2.0の内容を正式に国際規格化したものです。国際標準化機構は世界160ヵ国以上が加盟している産業分野の国際標準を定める国際機関で、国際電気標準会議は約90ヵ国が参加している電気・電子技術に関する標準規格を策定する国際的な標準化団体です。世界の基準を統一化し、障がいを持つユーザーが情報やサービスにアクセスする際の障壁をなくす目的で、2012年に制定されました。グローバル企業や組織の統一的なWeb環境実現に貢献しています。
JIS X 8341-3(国内規格)
JIS X 8341-3は、WCAGをベースに制定された国内規格です。日本で活動する多くの企業や組織が、ウェブアクセシビリティ対応においてJIS X 8341-3に準拠しています。
JIS X 8341-3とは
続いて、JIS X 8341-3に関する以下の項目に関して詳しく解説します。
- そもそもJIS(日本工業規格)とは
- 適合レベルを評価するための原則
- JIS X 8341-3における3つの適合レベル
そもそもJIS(日本工業規格)とは
JIS(日本工業規格)とは、産業製品や測定法などが定められた日本における国家規格のことです。産業製品生産から、文字コードやプログラムコードなどの情報処理、サービスに関するものまで、複数の規格が存在します。以下を主な目的として決められています。
- 経済や社会活動における利便性の確保(互換性の確保など)
- 生産の効率化(品種削減を通じての量産化など)
- 公正性の確保(消費者の利益の確保、取引の単純化など)
- 技術進歩の促進(新しい知識の創造や新技術の開発・普及の支援など)
- 安全や健康の保持
- 環境の保全
JISの要件を満たすかは多くの場合任意ですが、中には法規制などで強制力を持つケースもあります。
適合レベルを評価するための4原則
JIS X 8341-3は、適合レベルを評価するために以下の4原則でわけられ、全61項目が定められています。
種類 | 概要 |
知覚可能の原則 | ユーザーが視覚や聴覚など複数の感覚で、Webサイトを認識できるようにするための原則 |
操作可能の原則 | ユーザーがボタンやリンクを、マウス・キーボードを利用して操作できるようにするための原則 |
理解可能の原則 | ユーザーが内容を把握できるようにするための原則 |
堅ろう(牢)の原則 | Webサイトを長期間利用可能な状態にするための原則 |
JIS X 8341-3における3つの適合レベル
JIS X 8341-3では、以下3種類の適合レベルが設けられています。
- 適合レベルA:最低限必要なレベル
- 適合レベルAA:総務省や他の国・地域における法律、ポリシーで推奨されているレベル
- 適合レベルAAA:AAを発展させた基準で、一般的には求められないレベル
なお、適合レベルに関する詳細については、以下をご覧ください。
⇒ウェブアクセシビリティの「A」「AA」達成基準を詳しく解説!
JIS X 8341-3改正の経緯
JIS X 8341-3は作成された後も改正が繰り返されています。ここからは、以下のバージョンや、最新バージョンへの改正ポイントについて詳しく解説します。
- 2004
- 2010
- 2016
JIS X 8341-3:2004
JIS X 8341-3:2004は、2004年に制定された日本独自の項目も含まれるガイドラインです。以下のプログラミング言語で作成したコンテンツに対して、高齢者や障がい者でも利用可能なように考慮した基本方針になっていました。
- HTML
- XHTML
- CSS
- XML
JIS X 8341-3:2010
JIS X 8341-3:2010は、2004バージョンが2010年に改正されたものです。WCAGの内容に合わせられたため、日本の独自基準と世界基準のダブルスタンダードが解消されました。また、試験の実施方法や結果の表示方法が決定され、判断基準が明確化されました。A~AAAの適合レベルは、JIS X 8341-3:2010から用いられています。
JIS X 8341-3:2016
JIS X 8341-3:2016は、WCAG 2.0がISO/IEC 40500として採用されたタイミングで2010が改正され、できた規格です。WCAG2.0に忠実な翻訳がされています。改正により外資系企業の日本におけるサービス提供や、日本企業の海外進出が容易になりました。
JIS X 8341-3:2016への改正ポイント
JIS X 8341-3:2016への改正ポイントは、以下の3つです。
- 規格本文は、対応国際規格「ISO/IEC 40500:2012(WCAG 2.0)」と一致
- 用語や各達成基準の文言を、よりもWCAG 2.0の原文に忠実な日本語訳へ
- JIS X 8341-3:2010の箇条6と箇条8の独自事項を見直した上で、附属書へ
JIS X 8341-3:2010から達成基準事項に関する変更はありません。
JIS X 8341-3を利用したウェブアクセシビリティ対応ステップ
JIS X 8341-3を利用したウェブアクセシビリティの対応ステップは、以下の通りです。
- 適合レベルなどの検討・決定
- ウェブアクセシビリティ方針の作成・公開
- コンテンツの作成や改修
- 試験の実施と評価結果の公開
順に解説します。
適合レベルなどの検討・決定
まず、A~AAAのいずれに対応するか検討・決定します。各レベルで求められる内容は「JIS X 8341-3:2016 達成基準 早見表」で確認可能です。早見表を参考に、社内で検討すると良いでしょう。
ウェブアクセシビリティ方針の作成・公開
続いて、以下を記載したウェブアクセシビリティ方針を作り、Webサイトに公開します。
- 対象範囲
- 目標レベルと対応度
- 達成期限
- 達成が困難なコンテンツなどの例外事項
方針は達成状況を図るために、曖昧な表現を避けできるだけ具体的に記述しましょう。
なお、方針を作る際のポイントや具体的な流れについては、以下をご覧ください。
⇒企業がウェブアクセシビリティ方針を策定する具体的なやり方と流れ
コンテンツの作成や改修
Webサイトを確認し問題点を洗い出した後に、作成や改修を行います。問題点の洗い出しを全て人手で行うと多くの時間と手間がかかるため、ツールの利用がおすすめです。
⇒初心者必見!ウェブアクセシビリティチェックツールのおすすめ12選
改修後は、問題点が解消されているか、他に悪影響が出ていないかを必ず確認しましょう。ある箇所の改修により、動作不良などが起こるケースもあります。
試験の実施と評価結果の公開
最後に、達成基準を満たしているかの試験を行い、その結果をWebサイトで公開します。基準の確認には、ウェブアクセシビリティ基盤委員会が提供するエクセルファイルを利用すると良いでしょう。効率的な確認が実現します。
まとめ
ウェブアクセシビリティ対応に向け、日本国内における多数の企業が、WCAGをベースに制定・改定されたJIS X 8341-3を利用しています。JIS X 8341-3を用いたウェブアクセシビリティ対応は、以下の手順で可能です。
- 適合レベルなどの検討・決定
- ウェブアクセシビリティ方針の作成・公開
- コンテンツの作成や改修
- 試験の実施と評価結果の公開
ただ、上記を全てを人手により行えば多くの手間と時間がかかります。効率的な対応に向け、ツールの活用がおすすめです。